おはなしのね。制作実例⑤

新しい春を迎え、もう季節は新緑の候。

新しい場所で新しい暮らしを始めた友人や家族がわたしのまわりにも何人かいます。大切な森の仲間で、演劇WSの活動・表現カンパニーminawatotoを主宰したり、自身も俳優である聖子さんも、まあたらしい生活を始めたおひとり。


家族のおおきな節目に、長女Yちゃんの小学校卒業もあって
娘に向けてのハハ第二作となる絵本『わたしのおおきな木』を完成させました。



ハハ第1作『あたし まよ』は6才のお誕生日を迎えた次女へ。
今回は、中学生という時代を迎える長女へ。

もうそれだけで、こころにひろがる世界観やトーンが違います。

彼女がこれからますます体験していく「わたし」という深い世界への歩み。
もちろん背中を応援しながら、その旅の心細さ・勇敢さとわくわくさに、少し離れた場所から共感し見守るあたたかな視点。

母のまなざしは、この絵本の中ではとくに語られることなく、
でも「わたし」の呟きから、まだまだ気配色濃く関わっている日々が感じられる。
作者である聖子さんが「おおきな木」にすべてをゆだねることができるのは、聖子さんと森の繋がりが深くどっしりあるからで、その大きさが通奏低音として絵本全体に流れてもいます。

どんな絵本にしたいのか。
画材は何がふさわしいか。

前回の制作から引き続き、妥協することなく、理想にむかって最善をつくす聖子さんの、モノづくりの姿勢は、わたしにもまたたくさんの学びをくれました。

絵本『わたしのバイソン』や「いせひでこ」さんの絵本などが、今回とても参考になったような気がします。聖子さんのこのタッチ、もっともっと見たいですねー!

この強く静かな横顔が印象的なシーン。

物語の歩みをとめてしまわないかなど、わたしには当初、躊躇がありました。
でも、このシーンや絵は作者にとっては必然でした。

前後のシーン展開や、言葉の配置、絵の配置などを調整したり、言葉を何度も感じて練り直し、ほんとうに、とってもとってもすてきなページになりました。
聖子さんには見えているものを、わたしがあとから見せてもらったというかたちが、今回の制作には結構あったとおもいます。聖子さんは、ほんとに絵本作家だなあ、と感じます。

シーンを重ねるごとに、色遣い、構成などがどんどんとそのひとの本質を出してくるようで、魅せられます。
このページの背景とかもうやばいです!

ねまき姿で読んでいる様子のYちゃんがかわいい。どんな表情でこの絵本を開いたのでしょうね。おめでとう。

ラストのシーンは、さいごに、言葉の練り直しがありました。
絵での飛躍、文章でのリアル。
ホッとして、前進する。余韻がありながらも地に足の着いたちからある見開きになりました。すてきです。


今回は、しまうまプリントが新展開しているしまうま出版での印刷を利用しました。
安価なのは変わらず、ページ数に幅があったり、自由度がアップしてとても使いやすくなりました。おすすめです。


最後に、聖子さんは10年間、スタッフとして活動を中心で支えてきた「森のようちえん」の仲間たちにも、この絵本をプレゼントしてくれました。

聖子さんの創作と表現に、たくさんの喜びをもらったわたし自身も、同じ森の仲間たちに、こういうかたちで愛を共有できたことがほんとうに誇らしく、感謝しかありません。


遠く離れてもわたしたちは、こころの森で繋がっている。その実感が、わたしのいのちの根っこをはぐくんでくれています。聖子さんありがとうございます。

ほんとね。

絵本童話作家・詩人の大川久乃による website「ほんとね。」です