おはなしのね。制作実例②

この夏はS君のえほんも完成しました。

長男の同級生S君は、もともとお絵描きが大好きで、手作り絵本もどんどんうみだしちゃうような男の子。

彼と、彼のお母さん、ついでにわたしも! それぞれが絵本を作ってあるコンクールに応募しようということになり、この夏、いっしょに、それぞれが、絵本制作に取りくみました。

「えほんづくりのちいさな教室」とはちょっとちがうイレギュラーなかたちですが、許可を頂き制作をふりかえりながら、ちょこっと紹介してみます。

かたちはどうあれ、やっぱり「今日はきょうしつね」という前提を共有し、一度つくえにつくことは大事。いつもは「へ~すごいじゃんー」と見せてもらう絵やおはなしですが、彼なりの”原稿”の状態で、最初の提案をしてくれました。

おはなし冒頭のみの原稿でしたが、聞いていくと、ぼんやりとおはなし全体の構想はあたまのなかにできているのがわかります。それをなるべく彼のことばのまま、そのまんま出てくるように、ヒアリング。問うことで、「あ」と彼自身が気づいて、展開が具体的になっていくこともありました。

起承転結の流れにおとして、ものがたりの作り方を説明しているところです。
でもこれってあくまでもモデル。この説明は必須じゃあないなぁと今おもいます。あと、他の方とのえほんづくりもいつもそうだけど、ヒアリングすればするほど「いいじゃん、いいじゃん。できてるじゃん」という言葉ばかりが出てくるわたし。作者本人よりも先に「見えた!」と興奮するようなこの様子が、作者のこころの(筆の?)ブレーキをはずす作用を起こすこともありますが、わたし自身ちょっと気をつけるべきポイントでもあるなぁと思ったり……


さて今回、ゴールとしてコンクール応募があったので、要項に応じたページ数と、〆切がありました。S君は絵に自信があるし、おはなし作りとお絵描きを同時進行して作る絵本もすでにたくさん実績があって、それってすごい才能です。その才能でさらに決まったページ数でお話を仕上げる、息切れせずに着地させるそのバランスを意識できたら最強です。

コマ割りノートを使って、パッと見の視覚的に本をとらえておく。これはやっぱり重要なのかなと思います。ぱっと見でとらえられれば、安心感もうまれるし、「出来そう」という自信もできる。あと、そのおはなしと自分が「繋がった」感じがあると、いいんですよね。

わたしも今でもあります、アイデアが思いついて、自分に繋がった感じのアイデアだと、すぐに書きとめないでも大丈夫な感じがある。なるべく書きとめるものの、消えていく煙をおいかけるような焦燥感がありません。

一方で、長くやっていると、自分に根差していないアイデアなんてないと、「おはなしのタネ」みたいなものに信頼感をもてるようになると、それが育ってくるのを待てるようになったりする部分もあります。

逆にいえば、自分に根差していないアイデア、思考の方でこねくりまわして出したアイデアだと、なんだかすぐに忘れたり混乱したり、とにかくうまくいかなかったり…話しが反れました(笑)

この写真を見ると、「○○がいました」「××がいました」というテキストが3回繰り返されています。あいだ「転」の部分は、ヒアリングで会話しながら出てきたアイデアだったと記憶しています。

「○○がいました」「××がいました」は、当然、少しずつ意味や説明がつけられていくのですが、絵が語る場合、最低限のこのテキストでも充分成り立つ可能性もあるのが絵本のおもしろいところ。

とにかく、たとえばこのシーンの○○は、どうしてここにいるのか? 次のシーンの○○は、××がいたことで今どういう気持ちになっているのか? さらにその次で××がこうなったことで、次の○○のシーンでは、いったいふたりはどういうことになっているのか?

そんなおはなしの流れを、よどみなく作者本人がとらえること。そのためには、嘘のない素直な気持ちで、その川を見つめる。「うまくやろう」とか「絵本ってこう」とかいうのはすごくじゃまになるから、とりのぞいていく。純粋さは必須ではないけど、シンプルはめざしたい。そしてここまできたら、もうあとは、表現したいようにするだけです。


手さぐりながら「ワークシート」をのこしました。どうしてこうなのかと腑に落とす、ひとつひとつの問いを、どうやって立てるか。それを具体的な設問として書いたつもり。

ただ、このシートに向き合わう必要がないこともあると思っていたので、お母さんにはこれをやってもやらなくてもかまわないと伝えた記憶も。形式ではないのです。でも、それではお母さんは不安だったかなあ。けっきょくS君、とびこえて本描きに入り、するする~っとおはなしも完成させちゃったようですしね。

でもね。よく絵本作りの現場でもあることなのですが、一度想いを巡らせたかどうかはすっごい重要だったりするのです。編集者さんと互いに「すみませんでした」「いやでも大事なまわりみちでした」っていうやりとりはよくありますし、仕事の大半はそれであることも多いくらい。同時に、作品の質の良さはそこにこそあるのかなと信じてもいます。


「きょうしつ」というかこの「きょうしつの実践」を通して今わたしが感じているのは、いかに重たさを抜くか。重たさを抜いて抜いて、そこに、何かが関わっていたかなんて気づかせない。最初からこうして生まれてきました、という、超絶ナチュラルな感じでそこに在る作品、それこそが説得力ですものね。

難産も安産も含めて、その作品のいのちの重さ以上に、何かをのっけちゃってはいないかどうかをしっかり、さいごまで手をぬかずに見極めること、そこにこそ力を使うのかなぁと思ったりします。

とまぁそういうわけで、S君の名作、誕生しています。勉強になりました。S君、そしてお母さんのMさん、ありがとうございました。



「えほんづくりのちいさな教室」を親子でうけてみたいひと、お子さんがやってみたいばあいなどはまずはご相談ください。

ほんとね。

絵本童話作家・詩人の大川久乃による website「ほんとね。」です